人気俳優のチョン・ユミとコン・ユが3度目の共演で夫婦役に挑み、原作とはまた違った着地をする本作は、かつての自分自身や、友人・同級生たち、職場の同僚や先輩、母や祖母の人生に会いに行くような作品であり、いま避けては通れない“宿題”を投げかける1作となっている。
韓国エンタメは外さない!
いまだからこそ観てほしい映画
『パラサイト 半地下の家族』の日本公開から幕を開けた2020年。その後、思いがけないコロナ禍で「愛の不時着」「梨泰院クラス」「サイコだけど大丈夫」といったドラマが大ヒット。いずれも韓国のリアルな社会問題を浮き彫りにしながら、観る者を夢中にさせるエンターテイメント性を両立させたものばかりで、韓国エンタメのクオリティの高さを改めて目の当たりにした人も多いだろう。
そして、この秋に満を持して日本に上陸するのが映画『82年生まれ、キム・ジヨン』。韓国で最も多い姓の“キム”と1982年生まれの女性で最も多い名前“ジヨン”という、いわば最も一般的で平均的な、30代の女性が主人公だ。ジヨンは大学を卒業後、PR会社に就職し、学生時代の先輩と結婚、そして出産。現在育児中だが、そろそろ再就職したいと思い始めている。そんなジヨンの物語は、原作小説日本版の “顔のない女性”の表紙イラストが象徴するように、日本でも心当たりがありすぎる “私”や“あなた”の物語でもある。
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本国で2016年に出版された原作は大きな共感を呼び、その後、ハリウッドに端を発した「#MeToo」運動と相まって韓国にフェミニズムのうねりをもたらすきっかけとなった。
人気ガールズグループ「Red Velvet」のアイリーンが原作を読んだことを発言すると、「アイドルがフェミニスト宣言をした」と一部男性ファンから心ない猛反発が起こった。「少女時代」スヨンは「90年生まれチェ・スヨン」とのタイトルでリアリティ番組をスタートさせ、「女性という理由で受けてきた不平等なことが思い出され、急襲を受けた気分だった」と原作について言及した。
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また、先日、国連総会で“Life goes on. Let’s live on”(人生は続く。共に生きよう)というビデオスピーチを行ったばかりの「BTS」のリーダーで、読書家として知られるRMも、以前ファンに向けたライブ配信で「示唆するところが格別で、印象深かった」と原作を読んだ感想を語ったことも話題を呼んだ。
原作では、心が壊れてしまったジヨンを“診察した際のカルテ”という形で、彼女の幼少期から現在までと母や祖母の人生までも語られていく。映画では、その中でもジヨンの就職・会社員時代から育児中に焦点が当てられ、現代女性がただ生きているだけで受けている差別をつぶさに描き出す。ジヨン役、【83年生まれ、チョン・ユミ】の熱演は必見だ。
チョン・ユミと常に共闘…
コン・ユ演じる“夫”の存在に注目
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映画版でカギを握るのが、コン・ユ演じるジヨンの夫デヒョンの存在だ。チョン・ユミとは実話を元にした『トガニ 幼き瞳の告発』(11)で初共演した。原作はコン・ユ自身が兵役中に読み、映画化を熱望したノンフィクション。ラブコメディで培ったそれまでのイメージを一新、手話を猛特訓して聴覚障がいの子どもたちが学校関係者から受けていた性的虐待を告発する美術教師を演じた。同作も世論を大きく動かし、最終的には「トガニ法」という法律が成立したほど。
また、世界的ヒット作『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)では究極の動く密室=高速列車を舞台にした感染パニックにおいて、ゾンビだけでなく、現在のコロナ禍を彷彿とさせる人間の身勝手さや不寛容さとも対峙した。前者で人権センターの女性職員、後者で同じ列車に乗り合わせる妊娠中の女性を演じたチョン・ユミとは、いつも不条理な敵に対して共闘してきたわけだ。
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一転、本作では平凡で幸せな結婚生活を送っている“つもり”の夫デヒョンに扮し、時折、鈍感というか無神経というべきか、妻を気遣っている“つもり”からの無自覚な言動でジヨンのみならず、観る者も少なからず不愉快にさせる。
その罪深さに気づいたとき、激しく悔いて涙の告解を見せるデヒョンことコン・ユには、このいわば“汚れ役”を自分が一手に引き受ける、という決意が見える。チョン・ユミも、「コン・ユという俳優が持っている情緒、感情を表現する繊細さがデヒョンをさらに深みのあるキャラクターにしてくれた」と絶賛を惜しまない。
「男性にこそ観てほしい」オンライン座談会で上がった女性たちの声
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シネマカフェでは本作をいち早く観賞した、20代後半~30代の女性4名による座談会をオンラインで実施。映画を観ながら感じた共感ポイントについて、それぞれの立場から様々な意見が飛び交った。
【96年生まれ、Sさん】が強く印象に残ったのは、デヒョンの会社で行われたセクハラ研修のシーンだという。「なんでこんなことやらされてるんだろう、面倒くさい世の中になった」と話す男性社員たちは実際に彼女の身近にもおり、「その人たちが感じている生きづらさ以上に、こっちはもっと生きづらい思いをしてるのに」とSさん。
「結婚するときの子どもをもうける、もうけないのくだり」や「義母との関係」が「すごくリアルに描かれている」と話すのは【87年生まれ、Yさん】。デヒョンは子どもをもうけても「生活は大して変わらない」というが「人ごとなのねっていうのはすごく思いました」、周囲に対しても「一歩を踏み出すことがなかなかできない状況もあったりするので。それを簡単に人は言うよねって」。
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【85年生まれ、Hさん】も、「ジヨンは『人生が変わる』と言っていて、デヒョンは『生活が変わる』という言い方をしていたんですよね。そこは重みが違う」と同意する。会社員時代、ジヨンが女性ゆえに新規プロジェクトチームに選抜されなかったシーンがあったが、「最初は結婚しても変わらず仕事続けますっていうのがジヨンの姿勢だったと思うんですけど、結局あの後の段階で退職してるんだな、悔しいけどリアルだなって思いましたね」。
そのデヒョンについて「多分、日本にもいるであろう典型的な優しい旦那さん」と評するHさん。「もしかして、ジヨンがああならなかったら思いやることもなく、ちょっと無神経なままで行ってしまったんじゃないか」と、Sさんからは鋭い指摘も。
こうした本作のリアルさについて、まさにジヨンと同じ1歳児(韓国は数え年のため2歳)の子育て真っ最中の【81年生まれ、Kさん】は、「いま育休中なんですが、本当に毎日、時間があっという間になくなっちゃうのが想像していた以上」と語る。
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劇中冒頭でも、朝、デヒョンを送り出し、あれこれ家事や子どもの世話をしていたら「次の瞬間、夕方の日差しのベランダでジヨンが佇んでいて…。時計を見たら(映画が)始まって1分40秒だったんです」とKさん。このシーンに「そう、これ!」となったそうで、「今日もこうだったな、きっと明日もこうだなっていう、あのちっちゃい絶望が1分40秒で完全に描けてる」と映画だからこその描写に衝撃を受けたという。
そんな本作を、「母に観てもらいたい」とSさんは言う。「うちは4人きょうだいで、仕事しながら育児とか考えると、どうやってやってたんだろうって思うぐらい大変だったと思うので。母に、いままでの自分を振り返って労ってほしい」としみじみ。同じくYさんも、「ジヨンが電話で『お母さん、私が生まれた日のこと覚えてる?』って言ったシーンがすっごく良くて…それを多分、自分がもし子どもを生んだときに似たようなこと思うんだろうなと、ちょっと想像しただけでウルっと来てしまった」と明かす。
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また、Hさんは「私たち女性が生きてきた上でちょっとした理不尽も細々と描かれている」ことから同年代の女性はもちろん、「男性側に改めて観ていただきたい」と話す。Kさんも「夫や男性の友達、同世代の男性に観てほしい」と言う。男性たちも本作から気づきを得ることで「ここから先、せめてもっとマシな世の中になってほしいと思って。そのためにこの映画があると思う」と力を込めて語っていた。
「日本でも同じ」「自分のことのよう」
オンライン試写会にも共感続々
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映画レビューサイト「coco」で行ったオンライン試写会にも、「国は違えどジヨンの心を少しずつ壊していった何気ないことたちの積み重ねがリアルで、自分のことのよう」「姑との関係、仕事での性差別、育休に対して社会の不寛容さなど日本でも同じ様な社会問題がリアルに描かれていて胸が締め付けられた」と、ジヨンの生きづらさには“身に覚えがある”というコメントが相次いでいる。
また、映画ならではの“分かりやすさ”には「原作が社会的に果たした役割を映画でも達成する意思として断固支持」という声がある一方、「原作の終わりの方が残酷だけどずっと誠実だと思う」と賛否が分かれる様子も。
「ジヨンに全く共感できない!って感想が飛び交う未来を願わずにはいられない」と、“これからの社会”に期待する声のほか、男性陣からも「ずっと目の前に存在していたことを提示された時これからどう思い、どう行動するのか? もう知らなかったでは許されない」「これは語り合うべき『宿題』」といったコメントが寄せられている。
『82年生まれ、キム・ジヨン』劇場を調べる
『82年生まれ、キム・ジヨン』は2020年10月9日(金)より 新宿ピカデリーほか全国にて公開。
(C) 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
<提供:クロックワークス>