新型コロナウイルスの影響で公開延期の憂き目にあってしまった本作だが、少々驚く形で私たちの前に再び、姿を現した。それは、劇場公開とAmazon Prime Videoでの配信の同時展開。実写映画では、かなり珍しい動きだ。
めったにない機会なので、今回は本作ならではの「Amazon Prime Videoで楽しめるポイント」と「劇場で楽しめるポイント」を、不肖ながらご提案させていただきたい。
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役者の細やかな演技に注目
まず「Amazon Prime Videoで楽しめるポイント」だが、本サービスの特長は、自宅で観られること・こちらで再生/停止を調整できること等々。その部分を最大限に活用し、作品を細部まで楽しんではいかがだろうか。
まず、何回も楽しめる、というのは大きい。1回目は止めずに観た後、2回目は気に入ったシーンを何度も再生できる。個人的にオススメしたいのは、役者の細やかな演技に注目する見方だ。
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好青年や善人を演じることが多かった山崎賢人だが、今回はボサボサの髪で、成功しようともがく劇団の演出家/劇作家に扮している。どこか焦点の合わないうつろな目の動きや、自分を評価してくれない世間に対する鬱屈した怒りが沸点に達する瞬間など、これまでの山崎とは一味違うダウナーで荒々しい演技を、ぜひ繰り返し、細部まで堪能いただきたい。本作の山崎は、感情が発露する瞬間が絶妙なのだ。
山崎扮する主人公・永田の恋人・沙希を演じた松岡においては、笑顔に注目。序盤は屈託のない笑顔を見せていたが、後半にいくに従って、その笑顔に疲弊の成分が足されていく。そのスイッチがどこで入るのか、あるいはグラデーションなのか、演技巧者の松岡の“トリック”を見破るような感覚で、目を皿のようにして観てみるのも一興だ。
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劇場で鑑賞するという“体験”が没入感を高める
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次に「劇場で楽しめるポイント」だが、まずは公開劇場について一言。こちら、全国のミニシアターを中心とした上映になっている。ミニシアターの良さは、シネマコンプレックスに加えてこじんまりしており、各館の“体温”を感じられるつくりになっていること。この感覚、何かに似ていないだろうか。そう、演劇の小劇場だ。
本作『劇場』は、永田が演劇人なこともあって、小劇場が重要な役割を果たしている。その雰囲気を感じられる“場の物語力”が強いミニシアターで観る、という“体験”は、作品への没入感をぐっと高めてくれるはずだ。
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そして、重要なポイントをもう一つ。本作は、永田と沙希が共に過ごした数年間にわたる日々を描いているのだが、「2人が共有する“いま”は、もう二度と帰ってこない大切な一瞬である」というメッセージが、観る者に突き刺さる構造になっている。
私たちの人生が再現不可能なように、永田と沙希は失敗や痛みを経験しながらも、未来へと歩いていくしかない。この切なさを存分に味わうためには、やはり同じ環境に身を置くことが最適だろう。つまり、一度始まったら終わるまで止まらない、劇場での鑑賞だ。すべてのシーンは次の瞬間には過ぎ去ってしまい、幸福も後悔もない交ぜにしてフィナーレへと進む。行定監督は時間軸をいじることは行わず、“いま”を丁寧に積み上げていくことで恋人たちのリアルで儚いドラマを創出している。
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役者の演技を探求するか、物語に没入するか。劇場とAmazon Prime Video、どちらの形態で観ても、それぞれに胸に迫る鑑賞時間となることだろう。当然ながら、劇場←→Amazon Prime Videoの“おかわり鑑賞”も、オススメだ。切なすぎる2人乗りのシーンや、万感のラストなど、Amazon Prime Videoで楽しんだ後に劇場の大きなスクリーンと良い音響に身を浸すことで、名場面の数々に対する感動が増幅することだろう。
劇場公開と配信の同時展開。なかなかない機会だからこそ、ぜひ多様なアプローチで作品と向き合っていただきたい。
『劇場』を観る
『劇場』
7月17日(金)より全国にて公開、Amazon Prime Videoにて全世界独占配信
監督:行定勲
出演:山崎賢人、松岡茉優、寛 一 郎、伊藤沙莉、浅香航大、井口理、上川周作、大友律、三浦誠己
配給:吉本興業
作品ページ:https://gekijyo-movie.com/#top
#劇場
7月17日(金)より全国にて公開、Amazon Prime Videoにて全世界独占配信
監督:行定勲
出演:山崎賢人、松岡茉優、寛 一 郎、伊藤沙莉、浅香航大、井口理、上川周作、大友律、三浦誠己
配給:吉本興業
作品ページ:https://gekijyo-movie.com/#top
#劇場
<提供:「劇場」製作委員会>