鬼才スタンリー・キューブリックが手掛け、現在でも語り継がれるホラー映画の金字塔の要素と、ホラーの帝王スティーヴン・キングによる原作の要素を見事なまでに融合させたのは、キング原作のNetflixオリジナル映画『ジェラルドのゲーム』でも注目されたホラー界の俊英 マイク・フラナガン。
キングの著作を初めて手にしたのは小学5年生のときという、根っからのキングファンが、監督&脚本を務めた本作についてたっぷりと語ってくれた。
「キューブリック版を積極的に無視し、まったく別の方向へ読者を導く」原作小説

「ものすごく怖かったし、僕の世の中への見方を完全に変えてしまった」とフラナガン監督は、初めてキングの小説に触れたときのことをふり返る。「(理解するには)幼すぎたけれど、キングの作品をどんどん読み始めたんだ」と言い、「彼の小説をたくさん読むことが人生におけるひとつの指針につながった。というのは、とても怖がりの子供だった僕は、彼の小説から一瞬で勇気を奮い起こす方法を学んだからだ」。
もちろん、2013年に発表された「ドクター・スリープ」の原作小説が発売された日のことも鮮明に覚えている。
「キングは、キューブリックがトランス一家の背景について映画で変更した点を投げ捨て、自分の視点からだけに限ってストーリーを続けていて…。愛読者にとっては、その綱引きはじつに刺激的だった。キューブリックがあの題材から創りだしたものは、彼の作品として象徴的であり、ポップカルチャーの中、そして映画ファンとしての僕の頭の中にしっかり入りこんでいた。そのキューブリック版を積極的に無視し、まったく別の方向へ読者を導くこの小説を読んで、すごくワクワクしたよ」。

そこには、映画『シャイニング』には盛り込まれなかった多くのテーマが蘇っていた。「特筆すべきは、キング自身と同じレベルの依存症に焦点を当てたことと、贖罪についても触れている点だ。僕が最初に感じたのは、『このストーリーはすごくいい』ということだった。僕は、ダニー、アブラ、ローズ・ザ・ハットという3人のキャラクターたちも大好きだ」。
また、「『シャイニング』と『ドクター・スリープ』の間にある矛盾もとても気に入った」と監督は続ける。「それは、依存症と回復、迫りくる氷と炎。キングは1作目の小説から数多くのすばらしい要素を採り、それらを何かまったく新しいものの中で輝かせたんだ」。
最大の挑戦――キングとキューブリックが描いた世界を融合させる

「僕の中には、キングの小説を忠実なかたちで映画化すべきだという強い思いがある。それと同時に、キューブリックの映画版を崇拝する気持ちもある」と監督は力説する。
「当初、自分の中のそのふたつの思いがぶつかり合っていた。でも、その両方を満足させようとするなかで、自分のためにそれをうまくやれたら、観客にも満足してもらえる作品になるんじゃないかと考えたんだ。キューブリックとキングの間の細い綱をいかに渡るかを学ぶプロセスだった。両者に敬意を払いつつ、単独の映画として成り立つ作品を作ること。僕はそれを最初から優先させた」と、絶賛を受けている本作の成功の“秘密”を打ち明ける。