関係者の話から浮かび上がる雅子の姿
『リング』の中田秀夫監督や雅子さんを被写体に多くの写真を撮影したカメラマンの安珠が、彼女の持つ特別な“何か”について語れば、CMで共演した高嶋政宏やモデルの藤井かほりは撮影現場や日常での彼女のプロ意識の高さを語る。
その一方で、彼女が出演した映画『サヨナラCOLOR』を監督した竹中直人は「顔はあんなにきれいでシャープなのに、お茶目でちょっとドンくさい雰囲気もあって…(笑)」と意外な一面を明かし、彼女が通っていたバレエ教室の先生は「超不器用ですよ」と断言する。大岡監督は、自身が出会う以前の雅子について語られる様々な言葉をどう受け止めたのか?
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「さばさばした性格で、飾ったところのない人だったので、彼女がモデルとしてどんな立ち振る舞いをしていたのかは想像はしていましたが、具体的にお話を聞くと、僕がなんとなく『こういう人だな』と思っていたものがどんどん裏付けられていくような感じでした。全く新しい、知らない雅子像が出てきたというよりは、いろんな人の言葉によって、ボンヤリとした幻、蜃気楼の輪郭がハッキリとしてきたような」。
「不器用な部分なんかは、僕は普段からそういう部分を見てきましたので、なんならもっと知ってますよ(笑)という感じですね。彼女が亡くなってから、SNSなどを通して、ある種、彼女を崇め奉るような大ファンの方から連絡をいただいたりもしていて、でも僕に言わせれば彼女は“普通の人”でした。だから、そういう彼女のヌケサクな一面をしっかりと語ってくださる方がいたのは嬉しかったですね」。

モデルとしての高いプロ意識
モデル仲間や友人たちの口から、道を渡るほんの数秒、紫外線にさらされる際にも雅子さんが日傘を使用し、風呂上がりのスキンケアなどに、同じモデル仲間も驚くくらい、時間をかけていたことなどが明かされる。プロ意識の高さ――そこには、彼女の仕事に対する責任感だけでなく、誰もができるわけではないモデルという仕事に対するプライドがあった。
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「映画の中で、(モデルの)木村東吉さんが『モデルとは何か?』ということを語ってらっしゃいますが、雅子もまた、自分に課せられた仕事がなんなのか? ということに非常に意識的だったんだと思います」。
「これは映画には出てこないですが、彼女と出会った頃のすごく印象的な言葉があって、ちょうどその頃、いわゆる“読者モデル”と言われる、ごく普通の人との境界線が曖昧なまま、いろんな活動をする人たちが出始めてきていたんです。そういうコたちが、ランウェイを歩いているのを見て、僕が何気なく『すごいよね』とポロっと口にしたら、彼女はすごく真剣な顔で『そういう人たちをモデルって呼ばないで』と言ったんです。その出来事は僕の心の中にずっとくさびとして残っていたんだなと思います。19歳でモデルを始めて、20代、30代、40代と『モデルの務めとは何なのか?』『何をもってモデルたりうるのか?』と彼女は懸命に真摯に考え続けてきたんです」
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