あらすじ
東日本大震災から7年後。何もかも失った永原賢治(柄本佑)は、ある日、旧友である佐藤直子(瀧内公美)の結婚式に出席するため、地元・秋田へ帰省する。久しぶりの再会を果たした永原と直子だったが、直子の言葉をきっかけに、ふたりはふたたび体を重ねあうようになる。
直木賞作家、初の映画化
2009年に「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」で山本周五郎賞を、さらに2010年には「ほかならぬ人へ」で直木賞を受賞した白石一文。「火口のふたり」では、数年ぶりの再会をきっかけに、抑えきれない欲望をそのままぶつけ合う男女の姿が描かれた。本作が初の映画化。
主演を務めたのは、実力派俳優の柄本佑。『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18年)や『きみの鳥はうたえる』(18年)など、スクリーンの中で鮮烈な印象を残し続けてきた。また、佐藤直子役には瀧内公美が抜擢された。昨年、廣木隆一監督作品『彼女の人生は間違いじゃない』(17年)で主人公を演じ、数々の賞を受賞。監督は、脚本家としても活躍を続ける荒井晴彦。『身も心も』(97年)、『この国の空』(15年)に続く、3本目の監督作品となる。
キャスト&スタッフからコメントが到着
永原賢治役・柄本佑
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荒井晴彦脚本作品に出ることは僕の夢でした。今回のお話をいただいた時、小躍りしました。なんたって脚本だけでなく監督も荒井さんなんですから。ホンはなんともチャーミングで「大人」なホンでした。5歳の時から僕を知ってくれている荒井監督。今まで仕事したどの監督よりも付き合いの長い監督です。どんな映画になっているのか。出ている自分を見る不安はありますが、いち映画ファンとして出来上がりが楽しみです。
佐藤直子役・瀧内公美
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最初に脚本を読んだ時の感想は、絡みのシーンが多い、他愛のないことをずっと喋っている。面白いけれど、私に出来るのかなぁと思いました。現場に入り柄本さんとお芝居をすると、賢治と直子として他愛のないことを話す、食べる、身体を合わせる、寝る。そんな二人の日常を積み重ねていくうち、ああ生きるってこういう事なのかなと、自然と身体が動き、賢ちゃんを真っ直ぐ見て、聞いて、素直に直子として生きたように思えます。
良い緊張感と幸福感が現場に漂い、荒井さんと柄本さんの何気ない会話の端々に、この映画にとっての大切な何かがあるような気がして、さりげなく聞いているのが毎日の愉しみでした。
まだ仕上がりは見ていませんが、綺麗に撮っていただきましたので、実物より綺麗な私を見て欲しいです(笑)。お楽しみに。
荒井晴彦監督
東日本大震災と原発事故の翌年、白石一文の「火口のふたり」が刊行される。津波の翌年に××が××する話をよく書くなあと感心した。意表をつくカタストロフィーだが、まだ、あれから2年もたっていない時だ、あるかもと思わせられた。白石さんに原作をもらいに行った時、福岡を秋田に変えていいですかとお願いした。白石さんはアライさんじゃ仕方が無いですねと言ってくれた。その時から4年、震災から7年もたってしまった。
直子の結婚式に出るために故郷へ帰った賢治は直子に「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」と言われる。
「賢ちゃんが相手の人とうまくいかなくなるのは分かってたし、だったら、私、待ってればよかったかなって。ヘンな嫉妬なんてしないで、もっとちゃんと自分の身体の言い分を聞いてあげた方がよかったのかもしれないって」と直子は言う。
何があろうと「自分の身体の言い分」を聞いてあげようという映画です。
原作者・白石一文
『赫い髪の女』や『遠雷』の頃から荒井晴彦さんの脚本に魅せられてきた者のひとりとして、その荒井さんから映画化の話をいただき、一も二もなくすべてをお任せすることにした。しかも今回は自らメガホンを握って下さるという。原作者としてこれに優る光栄はない。
「火口のふたり」はあの大震災から時を経ずに一気呵成で書き上げた小説で、私としてはめずらしいほど生命力にあふれた作品だ。人のいのちの光が最も輝く瞬間をどうしても描きたかったのだろう。
映画界の伝説ともいうべき荒井晴彦さんの手で、その光がよりなまなましく、妖しく観る者の心を照らし、身の内に眠っていた“おとこ”や“おんな”が強く喚起されんことを切に願っている。
『火口のふたり』は2019年、全国にて公開。