神木さんは、漫画原作の主人公――小学生で家族を失い、プロ棋士の家に引き取られ、ひたすら将棋の腕を磨いて生きてきて、将来の名人と期待される高校生プロ棋士・桐山零という役柄について「どんな声で話し、どんなふうに叫ぶのか? 漫画から人間へと落とし込んでいくのは難しかった」と語るが、あるとき、大友監督から言われた「神木と零は似ているじゃん」という言葉をヒントに、棋士としての零を作り上げていったという。
原作に対して、その絵柄を含め、ふわりと柔らかくほのぼのとした作風というイメージでとらえる人も多いだろう。その映画化を監督するのがNHKの大河ドラマ「龍馬伝」や映画『るろうに剣心』を手掛けた大友監督? 違和感があった人も多かったはずだ。監督自身「最初は『なんで俺?』と思ったよ」と笑う。だが、しっかりと原作に向き合ってみると、決してただほのぼのとした、温かいだけの作品ではなかった。
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「将棋って盤上での斬り合いだよね。映画の冒頭、零が父親(※零を引き取った棋士・幸田/豊川悦司)を対局で負かす。そして家に帰ってつけたラジオで、息子による父殺しの事件のニュースを耳にします。原作の最初のシーンも同じなんですけど、やはり最初に大事なテーマが描かれているものだと思う。原作で、カッコウが別の鳥に卵を託すというエピソードも出てきますが、零自身が自覚しているのは『俺はライオンだ』ということ。飄々とした印象を持たれるかもしれないけど、心の奥でライオンを飼っている勝負師の厳しい話なんだと。だから『俺、この映画やりたい』って思いました」。
神木さんも、原作を読んで零が「決しておとなしい子羊ではない」と感じたという。
「最初に僕も静かな印象を持ったのですが、それはなぜか? おそらく彼が持つ孤独が見え隠れするからだと思います。そこに、はかなさや静けさを感じたのだと思います。しかし、桐山はプロとして盤上でプロの棋士に向き合いますし、相手を吹き飛ばす力を持ってもいる。後藤(※義姉の不倫相手の棋士/伊藤英明)にも立ち向かっていく。決して子羊ではないのだと思いました」。