少年時代、ときどきブラック・アウトしていたため、治療として日記をつけていたエヴァン。大学生となり、それも遠い過去となった今、彼は自分が持つ不思議な能力に気がつく…。コミカルな魅力ばかりが注目されるアシュトン・カッチャーが、初めてシリアスな演技に挑んだ映画『バタフライ・エフェクト』。これは、ある場所で蝶が羽ばたくと、地球の反対側で竜巻が起こるというカオス理論からきた言葉。つまり、ほんの小さな出来事でも何かと影響し合っていて、思いもかけない結果をもたらす可能性があるということ。「あの時、こうしていたらな」「思い切って、ああしていたら今の自分は違ったかも」といった想いを、見事サスペンス・スリラーとして描き出しているのです。エヴァンはある種のタイム・トラベラー。日記を読んで記憶を辿ると、その時代に戻れるという能力を持っています。でも、果たしてそれはいいことなのか悪いことなのか。自然の摂理に反している、神の領域に足を踏み入れている等々、倫理的な問題はありつつも、そこも含めて見事に娯楽化。そしてユニークなのが、“大好きだったあの人に、あの時、告白していれば、恋は実っていたかもしれないけれど、今持っているすべてとの引き換えだったかもしれない”というアイディア。エヴァンが想い続ける初恋の相手ケイリーの人生は、彼が過去を変えるたび、一緒に変わってしまいます。あるときは娼婦、あるときは大学のアイドル。そして、またあるときは不遇なウェイトレス。そのたびごとに劇的に変わるケイリーのファッションは観ていて面白い! 衣装ひとつで、彼女の心のすさみ具合、置かれた社会的立場などが一目瞭然、というわけです。結局エヴァンは、ケイリーの幸せを考えて、ある決断に踏み切るのですが、それが導くラストがなんとも切ない。そしてまた、運命の存在を信じたくもなるのです。確かに、恋愛は相手のあること。自分の告白ひとつで、相手の人生だって、その相手の家族の人生だって、大いに変わっていたのかも。そう考えると、なんだか人生って深すぎて、こわくなる?