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【映画と仕事 vol.24】渋谷のスクランブル交差点で白昼、ハリウッド大作を撮影する未来はありうるか?『ザ・クリエイター』の日本ロケを支えた男が描く夢

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のギャレス・エドワーズ監督のオリジナル脚本によるアクション超大作『ザ・クリエイター/創造者』が10月20日(金)に公開となった。

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『ザ・クリエイター/創造者』では日本でのプロダクションサービスに加え、映画にも出演している。現場でギャレス・エドワーズ監督と会話する田中氏。
『ザ・クリエイター/創造者』では日本でのプロダクションサービスに加え、映画にも出演している。現場でギャレス・エドワーズ監督と会話する田中氏。
  • 『ザ・クリエイター/創造者』では日本でのプロダクションサービスに加え、映画にも出演している。現場でギャレス・エドワーズ監督と会話する田中氏。
  • 『ザ・クリエイター/創造者』では日本でのプロダクションサービスに加え、映画にも出演。写真は撮影現場でのもの。
  • 「STUDIO MUSO」田中ハリー久也氏
  • 『ザ・クリエイター/創造者』© 2023 20th Century Studios
  • 『ザ・クリエイター/創造者』© 2023 20th Century Studios
  • 『ザ・クリエイター/創造者』© 2023 20th Century Studios
  • 『ザ・クリエイター/創世者』© 2023 20th Century Studios

どうしたら海外の撮影隊に満足してもらえるか?「変化に対応し、それをしっかりと説明していくこと」


――ちなみにロケーションに関しては今回、新宿や渋谷で撮影が行なわれたとのことですが、海外の都市と比べて、東京でロケ撮影するのは難しいという話をよく聞きます。どのように撮影が可能になったのでしょうか?

海外の都市と比べて、許認可が下りることが少ないということが「難しい」と言われる理由なのでしょうけど、決してできないわけではないのです。

例えば、渋谷のスクランブル交差点ですと、「深夜○時以降、○人までのクルーによる撮影であればOK」などとルールが決まっているので、取ろうと思えば許可を取ることはできます。ただ、朝から晩までの何百人ものクルーが参加しての大規模な撮影となると無理です。

また、Tik Tokerがひとりでカメラを持って歩きながら撮影している場合も、実質的に規制されることはないですよね。実際に交通の妨げになるか否かといったことが関わってくるので、公共の場での撮影の可否というのは、グレーゾーンの部分が大きくて、それが「(日本での撮影の許認可は)わかりにくい」と言われる理由のひとつでもあると思います。

じっくりと突き詰めていけば、撮りたい場所に近しい場所で、撮りたい画をカメラに収めることは可能ではあるんですけど、「手続きが煩雑で時間がかかる」「書面での契約を結ぶのが難しい」といったこともあり、なかなか日本での撮影が増えないという現実があると思います。

こうした部分を踏まえて、「この場所での撮影は可能だけど、きちんとしたバックアップが必要だ」ということや「急に場所を変えたくなっても、替わりの場所をすぐに見つけることは難しい」という条件を事前に制作陣にわかりやすく説明し、彼らの期待値をコントロールするというところが、職人芸といいますか、我々の腕の見せ所でもあります。

「あれもダメ」、「これも無理」とばかり言ってたら、彼らも嫌になってしまうので「これは無理だけど、こういうやり方ならできるのでは?」、「ここならどうだろう?」という様に、可能なことを提示して、彼らの気持ちを盛り上げ、気持ちよく撮影を進めてもらえるようにするスキルが実は何よりも大事です。

逆に言うと、そこをしっかりとできれば、結果的に撮影場所が1か所しか押さえられなかったとしても、彼らは満足して帰って「日本は素晴らしかった」という声を広げてくれるわけです。

日本人はどうしても真面目というか「できること」と「できないこと」をハッキリと言って「以上!」となってしまいがちですが、そうではなく、民間の外交官になったつもりで、どうしたら海外の撮影隊に楽しんでもらえるか? どうしたら満足して撮影してもらえるかを先回りして考えながら随時、変化に対応し、それをしっかりと彼らに説明していくことに尽きるのではないかと思います。

(C) 2023 20th Century Studios

――現段階のルールやリソースで決して「無理」というわけではないんですね。

ルールはありますが、やり方次第で可能です。先ほども言いましたが、日本でもこういうビジネスをされてきた方は多くいらっしゃいます。ただ、個人や小さな規模の会社でやっている方が多いので、どうしても今回のようなハリウッドの大作であったり、大型の案件にすぐには対応できなかったりします。そういう体制や組織づくりの部分がまだまだ日本では足りていないのかなと思います。

ロケーションだけのことで言えば、各地にフィルム・コミッションも増えていますが、それは撮影受け入れのごく一部に過ぎないわけで、全てを含めてサービスを提供できる体制を整えていく必要があります。そこは「STUDIO MUSO」でも進めているところです。

――都市や自治体の側にとっての撮影を受け入れることによるメリットはどういう部分にあると思いますか?

それを「よし」と思うか否かは価値観の問題になるのですが、私がディズニーに在職していた時、マーベルのケヴィン・ファイギ社長に対して、ずっと「『アベンジャーズ』の続編は東京で撮ろう」という提案をし続けていました。

例えば、渋谷で『アベンジャーズ』を撮影するとなったら、いろんな人の協力が必要で、警察の認可だけでなく、渋谷区の行政も巻き込んでやっていかないとできないわけです。

いま、まさに渋谷ハロウィンが大きな問題となっていて「ハロウィン当日は渋谷に来ないでください」と呼びかけていますけど、これをむしろポジティブな方向に舵を切って、渋谷区や警察の全面的なサポートを取り付けて、十全な根回しをした上で、渋谷での大規模な撮影をするのは決して不可能ではないと考えていました。

それができれば、街のブランド価値の向上が見込めるし、海外の人たちが「あの映画で見たあの街に行ってみたい」となる――いわば無料の広告のような機能を果たすことになります。

ニューヨークやロンドンはまさにそれを狙って、昼間から街の一部を封鎖して、撮影に協力しているわけです。もちろん、反対する声も一部にはあるでしょうが、街のブランドイメージが良くなれば、そこで様々な形でのビジネスも生まれるし、それが住んでいる人たちにも還元されます。

(C) 2023 20th Century Studios

――今回の『ザ・クリエイター/創造者』の一連のお仕事の中で、一番大変だったことや苦労されたのはどんなことですか?

期待された答えじゃないかもしれませんが、常に全部が大変です(苦笑)。ひとつとして、スケジュール通りに進むということがないんですね。「誰かが来ない」とか「荷物が届かない」とか、何かしらのトラブルが常に発生するし、それはその人だけの問題ではなく、全体のスケジュールに影響し、外部の方々にご迷惑をおかけすることになるので、現場のスタッフはほぼ朝から晩まで何かしらの対応に追われることになります。

こうしたトラブルの対処はもちろん大変ではあるのですが、やはり本当の問題は“コミュニケーション”に尽きると思います。日本の側の現実と海外の撮影隊が抱いている期待値に大きなギャップがあるので、その差を埋めるためのコミュニケーションが必要なのです。


《黒豆直樹》

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